こんにちは。リブセンス広報担当です。
今年2月末から今月にかけて、ITエンジニア限定の転職版ドラフト会議「転職ドラフト(β版)」の第1回が開催されました。エンジニア採用難と言われる中、なんと900名ものエントリーが!
今回は、転職ドラフトチームにサービスの立ち上げから第1回開催までを聞きました。
プロアスリートの世界とはほど遠い、プロエンジニアの転職
広報:
転職ドラフトの発案は、ITエンジニアではなく、キャリア事業部長(現 アルバイト事業部長)の鵜飼さんだと聞きました。立ち上げのきっかけは何だったのでしょう?
鵜飼(事業責任者):
私は、リブセンスに入社して以来、「ジョブセンスリンク」の運営に携わってきました。「ジョブセンスリンク」は、職種や業種を限定せず、初めて転職される方やキャリアの浅い方などにも幅広くご利用いただいていて、電話による転職サポート等を通じミスマッチの解消に取り組んできました。一方で、専門スキルやキャリアをお持ちの方々向けには、未だサービス提供ができていない、と感じていたんです。彼/彼女たちの場合、情報収集など転職活動は自ら行えますが、企業によるスキル・キャリアの評価は不透明です。同じプロでも、プロアスリートの世界とはほど遠い状況にあります。こうした状況を改善すべく、日本の採用プロセスを透明化させたい、と思ったのが立ち上げのきっかけです。
現状の採用プロセスでは、面接を重ねて最後に年収を提示するというのが一般的で、その方の評価は、前職の年収を基準に評価するケースがほとんどです。実際に、私も面接官を務める時は、“この方のスキルなら年収800万円出してもほしいな”とホンネでは思っても、どうしても“前職が600万円だから630万円くらいでオファーするか”となってしまいます。一企業の採用活動として短期的にみると、年収(コスト)を抑える立場なのでそれが健全なのかもしれません。しかし、長い目でその職種や業界全体を考えると、そこで働くプロたちのさらなるスキル・キャリアアップのモチベーションやチャンスを奪うかもしれないし、その仕事に夢が持てなくなってしまうと思うんですよ。それよりも、適正な評価がなされ、プロが高みを目指して切磋琢磨し合う世界の方が、市場全体として盛り上がりますよね。
ITエンジニアのように専門的な仕事であればある程、もっとプロとして評価される仕組みがあって良いはずです。“このぐらいのスキル・キャリアがあれば、一般的にこのぐらいの年収”という基準があらかじめ分かっていれば、企業も“こんなスキルの方がほしいから、このぐらいの待遇を用意する必要がある”とわかりますし、求職者自身も納得感があります。すでにアメリカには「HIRED」というサービスがあり、拡大しています。HIREDを参考にしつつ、日本に合ったサービスとして「転職ドラフト」を立ち上げました。
広報:
年収やスキルを明確に表示するサービスは、日本ではかなり斬新です。実際に、企業の採用担当者の反応はどうでしたか?
千田(営業担当):
採用担当の方々からは、「転職ドラフト、面白いね!」とご評価をいただく一方で、大きく3つのご懸念の声をいただきました。
1つ目は、「本当にこれでエンジニアが集まるの?」とか「自社の年収体系が明確になってしまうことに抵抗がある」といった、これまでにない新たなサービスモデルゆえのご懸念。2つ目は、大手企業様による「自社の指名や条件に他社が追随してしまうのではないか」、スタートアップベンチャー様による「大手ほど高い年収でオファーができず良い方を採用できないのではないか」という企業規模ごとのご懸念。3つ目は、「現年収に頼らずスキルで評価したり、指名理由を書いたり、1人ひとりのレジュメやスキルをしっかり読み込んで判断しなければならない」という現場担当者ならではのご懸念でした。
しかし、サービスの価値を維持しつつ、それらの懸念を払しょくしようと、企業の採用担当者へ粘り強く説明をした結果、優秀な方が採用できる可能性があるなら、と第1回ドラフトには17社がご参加くださいました。現状、ITエンジニアの採用に課題を抱えていらっしゃる企業様は多数いらっしゃいます。転職ドラフトを通じて、少しでも採用のお役に立てればと考えています。
喧嘩して喧嘩して創り上げた、こだわりのサイト
広報:
転職ドラフトの開発には、かなりこだわったとか?
エンジニアM:
私はものづくりをするときに、自分がおかしいと思っていることを変えたい、理由もなく当たり前になってしまっていることを変えたい、と常々考えています。私も、長い間「ジョブセンスリンク」を担当していて、転職業界に対してはたくさんの課題を感じ、変えていきたいと強く思ってきました。
例えば、エントリーフォーム等に必要情報を入力しているにも関わらず、面接の際に改めて紙の履歴書が必要になることが多いですが、入力済のPDFデータで十分ではないか、とか。エンジニアは、仕事上スーツを着ることがないのに、採用面接になるとスーツを着て行かなきゃいけない、とか。
サイトの登録フォーム1つをとってみても、そのサイト/サービスが何者なのか、登録すると何が起こるかわからないというのは、おかしいですよね。通常、サイトの登録フォームは、ユーザーの登録障壁を下げKPI(登録率)を上げるために、メールアドレスとパスワードだけというように入力項目をあえて少なくするケースがよくあります。でも、そのサイトが登録後に電話がかかってくる転職サービスなら、最初から電話番号を入力してもらった方がユーザーにとってもわかりやすい。エンジニアのための登録フォームなら、「好きなエディター」というエンジニアならではの項目を入れた方が誰のためのサービスか見ただけでわかる。入力項目を増やす際は、喧嘩になったほどです(笑)
松栄(ディレクター):
転職ドラフトの場合、指名されるために必要な項目を入れて頂かないと、企業から適切な評価や指名が得られません。一般的な入力フォームの常識には反しているかもしれませんが、エンジニアにとっては、必ずしも入力項目が少ないことがプラスに働くとは限らないんです。こんなに少ない情報で、自分たちの何が分かるんだ!正当な評価がされるのか?と。
また、対象がエンジニアということで、ITリテラシーが高いことを前提としたサイトづくりにしています。例えば、検索枠を1つとっても、通常だと注釈を丁寧に付けボタンの位置にも工夫が必要なのですが、今回はかなりシンプルな仕様にしました。
エンジニアM:
仕様が固まらない中、変更されるのがわかっているのに、公開日が迫っているからコードは書かなきゃいけない。ひとまず第1回の開催は決まっているけれど、第2回が行われるかどうかわからない。そんな状況で、どこまで創り込むべきか。現年収は入力してもらうのか、学歴はどうするのか・・・。課題は多岐にわたりました。サービスを出してしまえば、ユーザーの反応を見て修正していけば良いのですが、決まっていないものを創らなきゃいけない、というのは辛かったですね。
あと、年収の公開の仕方についても、だいぶ喧嘩しましたね。
松栄:
そうですね。エンジニア(ユーザー)のニーズに応えながら透明化を目指す私たちと、参加企業様のご懸念との狭間で、仕様が固まるまで大変でしたね(笑)
千田:
年収の公開については、100万円幅だったら出していいか、200万円幅ならいいのか、と交渉に交渉を重ねました。初回ということもあり、慎重になる企業様の立場もわかるんです。
松栄:
結果、ログインしなくても、どんなユーザーがどのくらいの年収感で指名を受けたか分かるよう、ユーザーランキングを掲載し「ゴッド級」「ウィザード級」「スター級」などという表示をすることにしました。
広報:
デザイン面にもこだわりを感じます。一般的な転職サイトは、明るいイメージのものが多いと思いますが、キャッチビジュアルが黒なんですよね。
松栄:
初めは、エンジニアの方々が好きそうなビジュアルということで、コードが並んでいるような機械的なイメージを考えていたんです。でも、実際に社内のエンジニアにヒアリングしてみると、普通にオシャレなデザインが良いとか、洗練されたイメージ方が良いという意見が多くて。
藤原/渕上(デザイナー):
“ドラフト(選抜)”ということで、「黒」と「赤」の強いコントラストを用いて、競争心とか力強さが伝わる配色設計にしました。ただ、キャッチビジュアル以外にもデザインを展開していく際に、いかに赤色を混ぜて、真っ黒なお葬式みたいな雰囲気にならないようにするか、工夫が必要でしたね。あとは、ITエンジニアは男性が多いこともあり、シンプル、スタイリッシュ、シャープなイメージにしています。
バグと間違われつつ、バズを生む
広報:
第1回ドラフトは、約900名のITエンジニアの皆さんがエントリーしてくださいました。上手くいった要因は何だと思いますか?
鵜飼:
エンジニア目線でこだわり抜いてプロダクトを創った点が挙げられると思います。
中村(マーケティング):
先程お話した登録フォームについては、「バグかと思った!」とか「斬新な登録フォーム」とか、驚きのツイートが目立ち、著名なエンジニアの方のツイートをきっかけに一気に拡散していきました。
また、ITリテラシーの高いエンジニアが対象だということを念頭において、思考性に寄り添った集客施策を打ったのが良かったのだと思います。敢えて限定感を出したり、登録に関しても、不快感につながる恐れのある、いわゆるプッシュ型の取り組みは避け、エンジニアの方々が自発的に登録して下さるよう、いわゆるプル型の施策を中心に行いました。
今回は、ターゲットがITエンジニアに絞られていたので、より刺さる施策が打てたと思います。
鵜飼:
リブセンスの既存サービスの場合、幅広いユーザー層へのリーチを狙うことから、ロングテールで集客してくるケースがほとんどです。しかし、転職ドラフトの場合は全く異なります。このため、集客方法もこれまでのノウハウに頼らず、全く異なる施策にチャレンジしました。一見先行投資と思われそうな認知獲得、例えば、最初から「転職ドラフトReport」としてコンテンツづくりをしたり、エンジニア向けのイベントに参加したり、エンジニア界隈で話題を生むきっかけづくりを行いました。
松栄:
友達紹介やO’Reilly本のプレゼントも効果的でしたね。あとコンテンツでは「好きなテキストエディター」についても、白熱した議論が繰り広げられツイッター上で拡散しました。
広報:
実際に開催してみて、想定外だったことはありますか?
千田:
多くのITエンジニアの皆さんが参加してくださり、中にはCTOクラスの非常にスキル・キャリアの高い方々もいらっしゃいました。実は、集客できなかったらどうしようか、と眠れない日々が続いていたんですよね(笑)
実際には、企業様からの指名や、指名に対するエンジニアからの返答率も、一般的なスカウトサービスとは比べて高かったんです。もちろん、ターゲット層が始めから絞られている分、一概には比べられませんが。でも、嬉しいサプライズでしたね。
特に驚いたのは、ある企業の採用担当者の指名返答率が100%だったことです。まさにカリスマ人事ですよね。指名の際に、採用担当者からエンジニアへ、指名理由などのメッセージを書いていただくのですが、その方のメッセージは全体平均の約4倍の文字数。きちんと自分の履歴書を見てくれている、自分を必要としてくれている、というのが伝わる内容で、“このメッセージをもらったら絶対に嬉しい!”と思えるものでした。
第1回の結果を見てみると、エンジニアの方々は、年収の高さだけではなく、人事担当からの熱意のあるメッセージ(指名理由)の方が判断材料になったようです。
第2回以降も、開催決定!
広報:
先日の経営会議で、転職ドラフトの継続開催が決定しました。改めて、今後の意気込みなどを教えて下さい。
鵜飼:
第1回の転職ドラフトが成功した要因は、やりたい世界を創ることにメンバー全員が妥協しなかったからだと思うんです。どんなプロダクトがいいのか、どんな集客施策がいいのか、徹底的にユーザー目線で考え、既存の常識やノウハウにとらわれず、転職ドラフトの世界を実現することをあきらめませんでした。このサービスはリブセンスだからできたし、リブセンスでやれてよかったと心から思っています。
転職ドラフトは、まだ第1回を終えたばかり。これから創り上げていくサービスです。まずは、転職ドラフトでこんな体験ができるということをユーザーや企業様にしっかり訴求し、サービスブランドを築くことだと考えています。もちろん、長期的には他の専門職種にも展開できるビジネスモデルだと思いますが、まずはITエンジニアの領域に集中し、エンジニアの転職を変え、市場全体に影響を与えていけるようにしたいですね。
転職ドラフトを通じて、働くプロたちがその仕事に夢を持てるようにしていきたいです。
広報:
みなさん、ありがとうございました。
第2回ドラフトの開催について、詳細が決まりましたら、プレスリリースにて発表させていただく予定です。