渡航エンジニア自ら改善する海外カンファレンス制度

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この2月、リブセンスがスタートさせたばかりの海外カンファレンス渡航支援制度。渡航先のピッツバーグから帰ってきたエンジニアの内山さんは、実際に行ってみたことで「制度の改善点」をいくつも見つけることができたといいます。

帰国早々、制度発足の陣頭指揮を執ったVP of Engineering 職の能登さんと制度の見直しに取り組む内山さん。これは、新しく発足した制度すら初回から満足に終わることはなく、いかにフィードバック・ループを必要とするかを物語っています。

企業が海外カンファレンス渡航支援を行うことも珍しくはない昨今、これを十分に活用するにはどうすればよいのか? リブセンスにとっての最善の形はどんなものなのか? この対談で明らかにしたいと思います。

プロフィール:
能登 信晴(のと ときはる)
VP of Engineering にあたる 『 Livesense Engineer Leader 』 を務める。海外カンファレンス支援制度が発案された、事業部間を跨ぐエンジニア組織「 Team-Livesense Engineering Board 」のリーダーも兼任。

内山 高広(うちやま たかひろ)
アルバイト求人サイト『マッハバイト(旧ジョブセンス)』の開発を担当。「 Team-Livesense Engineering Board 」のメンバーとして本制度の発案・運営に協力。第1回渡航の対象者にも抜擢される。

セッション内容を見たいだけならYouTubeで十分

能登:「 Rails Conf 2018 」に実際行ってみて、想像と違っていたことってありました?

内山:「セッションやキーノートから情報を得ること」だけを目的にしないで、カンファレンス自体の雰囲気を楽しむことをもっと重視すればよかったってことでしょうか。

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能登:というと?

内山:海外のカンファレンスに限らないと思いますが、大抵のセッションって後でスライドを閲覧できたりしますし、最近では YouTube で公開されることも多いです。それに、ぼくは英語力にそんな自信があるわけではないので、セッションについていこうとすると理解するのにかかりっきりになり、楽しもうとする余裕がなくなってしまうんです。

能登:なるほど、そういうことですね。

内山:世界トップクラスの人たちがどんなことをしているのか、自分がそれに近づくにはどうしたらいいかを、雰囲気を含めて自分の目や耳で味わうこと自体が貴重な体験になると思います。
会場の人たちとゆるやかなコミュニケーションを楽しむのもいいでしょうし、ふだんお世話になっている OSS の制作者に会いに行ったりしてネットワーキング的な付加価値を求めるのもいいんじゃないでしょうか。
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能登:実際に行ってみて感じたことや、こう改善したらもっと良くなるんじゃないかといった提案があればぜひ聞かせてください。内山さんはこの制度で最初の渡航者だし、リブセンスとしても初めての試みだから。

内山:はい、渡航記はリブセンスのエンジニアブログに掲載しているのでそちらに任せるとして、今回は「もっとこうしたらいいんじゃないか」という制度の改善についてお話できたらと思います。

渡航の「成果」は求めない。気軽に使える制度にしたい

内山:制度運営者としては、まず「ハードルを下げたい」というのがありますね。セッションから得られる情報を全部持って帰らなきゃとか、現地の人とがっつりコミュニケーションを取って仲良くなるっていうのは、けっこうハードルの高いことだと思うんです。
ぼく自身は何か新しい情報を持って帰りたいと思っていましたし、そういった気持ちがあること自体は良いと思うんですが、根を詰めて臨まないといけない制度にしてしまって、参加したい人たちが気後れしてしまうのは本意ではありません。
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内山:そこまで踏み込んだコミュニケーションなんてできなくてもいいし、「何か新しい情報を持ち帰らないと!」なんて思わなくてもいいから、何かのきっかけになりそうなら「とにかく行ってきなよ」って思いもあるんです。

能登:ぼくもハードルを下げたほうがいいなって思ってる。実はぼくが一番最初に国際カンファレンスに参加したのって日本なんですよ。

内山:えっ、どういうことですか?

能登:日本で開催された国際会議で、スピーチは全部英語だったんだけど、それ以外の移動とか、ホテルとか、食事とかは日本語が通じるから気楽だった。移動費用も抑えられるし、初めて経験してもらう人にはちょうどいいかもしれないね。
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内山:今月末から開催される「RubyKaigi」なんて、まさにそうですよね!(注: インタビューは2018/5/14に行いました)あれは国際カンファレンスだし、リブセンスでも滞在費や宿泊代を支援してるのはいい試みだと思います。たしか今年は社内から10名以上が参加しますし、実際に行った人がレベル感を掴めるといいですね。

能登:そうだよね。じゃあ、敷居を下げるために「国内の国際カンファレンスに支援する」ってところから始めよう!

内山:いいですね!あと、カンファレンスで経験したことを、どうチームや会社に貢献すればいいのかがわからなくて。というか、情報を持ち帰ってくることがゴールかというと、それだけじゃないよなっていうのが感覚としてあります。

能登:会社からの期待がどこに置かれているかってことですね。
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内山:海外にしても国内にしても、会社のお金で行くとその後の発表だったりとかレポートを書いたりってところを求められることもあって、どうしても億劫になるじゃないですか。
運営が想定している以上に、完成度の高いレポートが必要だと思い込んで参加を控えてしまうのはもったいないですし、ゴールの設定って難しいなと思いますね。

能登:ただ新しい技術やノウハウを持って帰ってくるだけじゃなくて、帰国後にどうやって報告するか、どんな想いで制度を利用してほしいかといったことは、やりながら良いかたちを見つけていく。そうやってみんなの姿勢をひとつに揃えていくというプロセスにも、十分な価値があると思うんですよ。
もちろん技術を持って帰ってきてもらいたいという気持ちはあるかもしれないですが、それよりも「世界トップクラスはこういうことをやってるから、そこに近づくにはどうすればいいか」を肌身で感じた上で考えるのを当たり前にする、という点が重要だと思っていて。

みんなの前で発表したりレポートを書くのがメインじゃないよって言い方はきちんとしておきたいね。

その制度は意図せず「マッチョ仕様」になっていないか

内山:今回ぼくはひとりで渡航したわけですが、やはり知らない海外の土地でひとりきり、という不安はずっとありました。
あまり海外に行かない人からしたら、ホテルや飛行機の予約、保険の加入も心配になると思うんです。スキル面はもちろんですが、海外での過ごし方もサポートしてもらえたら、ずいぶん行きやすくなるんじゃないでしょうか。

能登:うん、それはいいね。じゃあ、経験者によるサポートチームをつくっちゃいましょう!

内山:ぜひ!
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能登:そうか、手配や行き方のサポートは必要かもしれないけど、本当は「ひとりで海外出張に行く」ってこと自体がすでにハードル高いですよね。であれば「メンターと一緒に行く」っていう仕組みもあるといいのかな。

内山:それは心強いですね。

能登:今回はやらなかったけど、どこに敷居があるのかアンケートで調査して、先に解消しておくのも手なのかもしれないね。ぼくも内山さんと一緒でけっこうマッチョなんで、「海外くらいひとりで行けばいいんじゃん」って軽く考えちゃうんですけど、みんながみんなそうじゃないって認識しておかないとね。

内山:ぼくは別にマッチョじゃないです(笑) 行く前からずっと不安でしたから。あと渡航者の観点で言うと、行きたいカンファレンスを見つけるのってけっこう難しいと思うんです。
ぼくが行き先で悩んでいたときに、創業者の桂から「どのカンファレンスに行ったってたいして変わんないから、どこだろうととにかく行ったほうがいい」って言ってもらったんですね。
それは別に個々のカンファレンスで話される技術のことを軽視していたわけではなくて、行く人にとって「行く」こと自体が何かのきっかけになるというところが大きいと思っています。あの一言がなかったら渡航するか決めきれなかったかもしれません。
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能登:なるほどね。言語に関するカンファレンスにしても、その中で一番大きいグローバルなものもあれば、ヨーロッパとか地域でやっている小さなイベントもあったりするし、何が有用なのかを判別するのは難しいかもしれないね。
今のところ、カンファレンス選びについて運営側から適切なアドバイスはできていないから、今後制度を育てていく上でサポートしていくようにしましょうか。

内山:はい、そうしましょう!

現地の楽しみは、会場の中だけじゃない

内山:これは会社の予算で行く上で適切かどうかはさておきなんですけれど、支援先を「行きたい場所ベース」で考えるのもありじゃないですか。
例えばヨーロッパで行われるカンファレンスであれば、「ヨーロッパに行ってみたいな」って思っていた人にとってのチャンスになりますよね。場合によってはそんなのもありなのかなと思っちゃいました。
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能登:ぼくは「行きたい場所ベース」で決めちゃっていいと思ってます。学会の泊りがけで行く合宿形式のワークショップとか、いかにみんなが行きたいところで開催できるかについてみんなで考えていたりしますし(笑)

内山:え、そうなんですか!?

能登:そうそう。例えば今年の 6 月に開催される人工知能学会は鹿児島の観光ホテルで開催されるんです。温泉地なんかでもよくやっているし、場所に惹かれるのって自然なことなんじゃないかな。
「鹿児島に行きたいから何か発表するネタを考えよう」って、十分健全な考え方だと思いますよ。

内山:ですよね。ちなみにぼくは有給を使って1日だけ延泊したんです。というのも、ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学に留学している前職の先輩がいて、せっかくだし彼を訪ねてみようと思ったからなんです。
大学のキャンパスを案内してもらったりして、休暇を楽しく過ごせました。
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ピッツバーグってそこまで観光資源がたくさんあるような街ではなかったので、1週間近く滞在していると正直飽きてしまうところもあったんです。でも、こういった現地でしかできない経験があって本当によかったと思っています。
これから行く人にも、コンピューターサイエンスがどうとか仕事につながるとか関係なしに、行った先でしか味わえないことを1日くらい自由に経験してもらうのはいいかなと思います。

能登:いやもう、ホントにそう思うよ。ぼくが最初に出張で海外に行ったときも、ホテル代を自腹で足して延泊し、見聞を広めるために充てたんです。そんな機会ってなかなかないですから。
もちろん業務に差し障りのない範囲で行ってるし、直接仕事に活きるかどうかはわからないけれど、きっかけを有効活用して人生を豊かにしていくのはすごくいいことですよね。

内山:ぜひ次からは積極的にそうしたいです!例えばアメリカの西海岸に行くなら現地のIT企業に行ってもらいたいですし、コンピューターサイエンスの博物館を訪れるのもいいですよね。それこそぼくみたいに海外の友人に会いに行くのもいいと思うんです。

能登:サンフランシスコ・ベイエリアの方だとミートアップ自体が盛んに行われているみたいだから、その開催に合わせていろんなミートアップを楽しんでくるのもいいんじゃないかな。それに大学の生協の本屋ってけっこう刺激的だから、技術書に限らずどんな本が並んでいるのか見るのも楽しいと思う。

内山:ぼくもそう思って行ってきました。そうしたら Ruby のカンファレンスやってるはずなのに Python の本ばっかり並んでいて。Ruby の本が全然なくて笑っちゃっいました。

能登:それも貴重な経験だね(笑)
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この制度を道具にして、自分の殻を破ってほしい

内山:今回はエンジニアが渡航の対象でしたけど、そもそもこの海外カンファレンス支援制度って他の職種でも適用可能ですよね。例えば Google I/O はエンジニア以外の人からも注目度が高かったりしますし。

能登:そうだね、マーケティングやプロダクトマネジメント、UX デザインとかいろいろありますよね。対象者はどんどん広げられるといいですよね。

内山:いろんな職種の人がカンファレンスに行って、それぞれが経験してきたことをシェアしながら交流できたら、この制度の価値がもっと活きてくると思うんですよね。

能登:いいね、そうしよう!デザイナーのリーダーとかプロダクトマネージャーにも相談してみよう。

じゃあそろそろまとめにいこうか。まずはぼくから、今後この制度を使ってもらってどうなってもらいたいかの考えを話すと、グローバルのトップレベルの技術や試み、コミュニティをわかった上で活躍できるエンジニアになってもらいたいと思ってます。
でも、日本のITの世界しか見ていないと、自分の位置というか能力を正確に捉えることはできないとも思っていて。
だから自分の能力がトップレベルのエンジニアとどれくらい差があるのかを知ってもらいたいんだよね。

内山:今回渡航してみて、自分の目でその差を知ることができたのはいい経験になりました。

能登:そうだよね。何か問題が起きたら普通に検索して英語の情報を読んでいるように、海外のトップクラスの技術やコミュニティがどんなものかを知った上で、目の前の仕事に取り組めるエンジニアになってもらいたい。それがこの制度を使ってもらう上で、ぼくが一番伝えたいことかなと思っています。

内山:よくわかります。ぼくも能登さんの考えと近いですね。
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内山:能登さんはトップレベルとおっしゃってましたが、ぼくは逆に「自分たちがやっていることとが、海外のカンファレンスで言われていることと地続きであることがわかる」という経験をしてもらいたいと思うんです。

能登:ああ、なるほど。

内山:ぼくらがやっているエンジニアリング活動の一歩先、二歩先に世界水準があって、技術や OSS をつくっているトップレベルの人たちがいます。でも、自分たちが使っているその技術や OSS の先に彼らがいるのだから、じつは地続きでつながっているんですね。

能登さんの「トップレベルを目指してほしい」ということと少し隔たりがあるように見えるかもしれないんですが、こういったことを肌身で感じられるというのは、「自分の殻を破る」であったり、「外に目を向ける」と意味でも、すごくいい経験になるんじゃないかなと思います。

能登:いいこといいますね。あ、ぼくもそう思ってましたよ、ホントに(笑)
実際は思っているほど隔たりがなかったりするというか、これはもしかしたらもうちょっと努力すれば自分にも似たようなことができるかもしれない、という感覚を持つのもいいことですよね、きっと。
初回の渡航経験からさっそく有益なフィードバックがありましたし、第2回の渡航に向けて制度を改善していきましょう!内山さんは次回メンターとしての活躍もお願いします。

内山:もちろんです!
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制作 渕上聖也

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